社長の変化が支配人(スタッフ)を変える

一代で会社を築き上げたやり手の社長にとって、部下の支配人達の働きぶりは物足りないものに映りました。
ですが、実際は支配人達は社長を恐れていたのです。両者の間を隔てていた見えない高い垣根を取り除いた事例です。
県内にホテル、結婚式場を八店舗展開している社長から八店舗の支配人の勉強会を依頼されました。支配人の成長が現場の活性化に直結しているからです。

【社長の悩みと依頼】

「うちの支配人達は全体的におとなしい人間が多いのでもっと積極的になってほしい。
なのに私のいうことを理解しないで動きが遅い。そして少し厳しく注意するとすぐ辞めてしまう支配人もいる。私に現場の報告や連絡をしたり、しなかったり、基本的なことも守れない。また私との関係においても本当の信頼関係がないようだ。彼らが私との間に垣根のような物を作っているようで何か物足りない。支配人達にもっと私の考えを理解して心を近づけるように指導をお願いします」という内容した。
社長は一代で会社を築き上げてきた人物で、その目から見ると支配人達に物足りなさを感じているのです。
八店舗の支配人、副支配人、社長、専務という参加メンバーで勉強会をはじめました。なるほど社長のいう通り、支配人達はおとなしい人が多いようでした。勉強会が終わると社長とミーティングを行いました。すると社長は勉強会での支配人達のコメントや考え方に対して色々と不満をいい始めました。

 

【社長の悩みの根本原因】

「A支配人は勉強会の時はいかにも仕事に対してきちんと取り組んでいるようなことをいっていたが、彼が支配人のなかで一番仕事の報告をしない人間なのです。B支配人は仕事のイージーミスが多い人間です。あれでは社員をこれから引っ張っていけないでしょう」とAとBの両支配人の分析と批判をし始めました。しかも、その口調はだんだん強くなり、更にその他の支配人達のことまで不満を言い出しました。
そのような社長を見て社長の悩みの根本原因が見えてきました。支配人達との間に垣根を作っていたのは社長自身と思われました。社長の話をじっくり聞いたうえで、社長の悩みに対して話し合いを進めていきました。
「社長はいままで自分一人でこの会社を大きくしてきましたから、会社で一番仕事ができる人なのです。その一番仕事ができる人から見れば、支配人や社員全員が物足りないのは当たり前です。支配人や社員に対する見方を変えてみてください」

社長「社員が自分より仕事ができないのは承知しています。しかし、支配人となればもう少ししっかりしてもらわなければ困ります。例えば報告、連絡をきちんとするというのは、支配人として当然のことではないですか。支配人達には現場の状況を的確に報告してほしいのに、こちらから聞かなければいわないことが多すぎます。それでは、現場の社員達の様子やお客様の状況が分からないので困るのです。支配人としてあまりに無責任ではないですか。仕事ができる、できないという以前の問題です」と社長は感情的になってきました。
「報告、連絡をきちんとしない支配人に感情的になる社長の気持ちも分かりますが、報告を受けた時に社長の反応が適切でなかったならば、報告をする支配人達は報告を怖がるようになり、やがて良い報告だけをするようになります。お客様との間にミスやクレームがあることは避けられない事実です。しかし、その度に社長は感情的になり、報告する支配人を怒っていたのではないですか」
社長「いいえ、いつも感情的になるわけではありません。しかし支配人でありながらあまりにも基本的なことを守らないし、しかも何度注意や指導をしても同じことを繰り返したりするのです。その時は感情的になる時もあります」
「その感情的になるという社長自身の心の問題が根本原因なのです。つまり、社長の心の内面には『自分の思い通りにならないことや、自分の気に入らないことをする人間を許さない』という怒りの生命状態が常にあるのです。その生命状態は、何事もない普通の状況の時は出てきませんが、支配人のミスや決まりを守らないという出来事に刺激を受けて、感情的に相手を責めるという行動になっていくのです。支配人達の行動や仕事は、社長から見て物足りないでしょうけど、良くやっているところを見てあげるようにしてください。」

 

【減点方式ではなく加点方式で!!】

「つまり、減点方式ではなく、加点方式で見ることにより社長は怒りの感情を抑える訓練をしてください。社長の内面にある怒りの生命状態の改善がない限り、社長の悩みはいつまでもなくなりませんよ」

社長「私はいつでも怒っているわけではありません。昔よりおとなしくなったと思っているし、できるだけ支配人達を褒めるように努力もしているつもりです。しかし、支配人達は私の気持ちを理解しようとしないで、相変わらずいわれたことしかやらないのです。どうすれば私の思った通りに積極的に動いてくれるのか?」

「支配人達は社長の本音を良く理解しています。彼らは社長がどのような性格なのか、何をすれば怒るのかを知っているのです。ですから、社長の怒りの感情に触れないように行動しています。決められた仕事を無難にこなすことで、表面上褒められることより社長の怒りの感情を刺激しないことを選んでいるのです、そうすると自分を守ることが大事ですから、仕事でも積極性はなくなり、社長に報告をしにくくなって近づかなくなっているのです」

社長「それはそうかもしれませんが、では私が怒りの生命状態を無くしたならば支配人達は報告、連絡という基本を守れるようになりますか?物足りない支配人達が逞しくなるのか分からないではないですか」
「怒りの生命状態はなくなりませんし、支配人達の個々人の問題もなくなりません。怒りの生命状態から出てくる感情をコントロールするのです。例えば、子供を虐待している人間を見た時に怒るのは正義の怒りとなります。逆に、支配人達が仕事で起こすミスに対して相手の感情を考えないで、自己中心の感情で批判したならばその怒りの感情は、起こしたミスへの反省を促すよりも相手の自尊心を傷つけて相手の怒りの感情を引き出してしまいます。結果として、社長に対する信頼と尊敬を社長自らが破壊していることになるのです」

社長「しかし、現実に支配人達は私のいうことや決まりを守りません。その時は、私が我慢しろということなのでしょうか?」

「我慢ではなく、彼らの行動に対する見方や捉え方を変える努力をするのです。つまり、彼らが起こす問題やミス、何回いってもいうことを聞かない相手に『問題やミスが起きたのは、頭にきてイライラする出来事だが、自分の対応が試されているのだ。決してこの出来事に振り回されて自分の悪い怒りの感情を出さないようにしよう。支配人達は彼らなりに頑張っているはずだ』と自分に言い聞かせて行動するのです」

社長「それはいまの自分にはかなり難しいことです。しかし、話は分かりました。おっしゃる通りいままでは、自分の思った通りにならない人間や問題に対して、彼らを注意や指導するという形で自分の感情をぶつけていたのでしょう。いま思えば、私が彼らのことを理解しようとしないで、相手の欠点や、ミスだけを見ていたからだと思います。ではどうすれば自分の課題を克服しつつ支配人達を成長させられるでしょうか?」

 

【自ら出向いて話を聞く】

「まずは、八店舗の現場を定期的に回ってください。そして、支配人達に社長の方から連絡や報告などを聞いてください。更に困っていること等を聞いてあげてください。『現場のことは支配人に任せている。何かあったなら、責任は私がとるからいつでも相談しなさい』とだけいって支配人達を信頼してください。支配人達は社長に信頼されたいのです。褒められたいし、近づきたいし、指導してほしいのです。しかし、彼らからは怖い社長には近づけないのです。本当に優しい社長から信頼されれば期待に応えようとします。支配人達との間に心の垣根があると感じているのならば、その垣根を社長の方から取り除いてください―」

その後、社長は八店舗を意識して回るようにしました。少し時間はかかりましたが社長は自分から支配人達に近づき、彼らを理解するように努力しました。支配人達はそのような社長の変化を見て、自分達からも積極的に社長に近づきました。信頼関係は強化され、仕事においてもミスを怖がらず、前向きに取り組み出したのです。
その結果、八店舗で多少の差はあっても全体的に明るい会社になり、業績も向上していきました。社長の心と行動の変化が支配人達と現場を変えたのでした。

2011年03月03日